コラム「日本語あれこれ」

こちらでは、日本語にまつわるあれこれをアップしていきたいと思います。

当面、過去のtanakomoのアップになりますが、ボチボチ更新していきたいと思っています。

 

 

 

 


「ので」と「から」の違い

 (2014.3.6 tanakomo

 

さて、さきほどのコメントに出てきた「ので」と「から」の違いを解説します。


少々長いので興味の無い人はスルーしてください。

まずこういう言葉のペアを類義語といいます。普段話している分には違いは意識しないのですが、世の中にはまったく意味が一緒の、しかし形が違う言葉はないと言われています。ほぼ同じ意味でも何らかの違いがあるからこそ、違う形の言葉が存在するのだと考えられています。

では、そういった類義語の違いを分析するにはどうしたらいいのか?言語学の分析手法のひとつとして、作例するというものがあります。

まず、「から」も「ので」も使える文を考える。次に「から」は使えるけど「ので」が使えない文を考える。同じように「ので」は使えるけど「から」が使えない文を考える、そしてその3つの文の違いがなぜなのか、どこからきているのか考える、というやり方です

では考えてみましょう。チャレンジしたい人は以下の解説を読む前にぜひ例文を考えてみてください。

では違いを解説する前に「から」と「ので」にはどんな機能があるか、を書いておきます。

みなさんもよく知っているように、まず「から」と「ので」は「出来事の原因・理由」を表わします。でも、もうひとつあるんです。「判断の根拠」というものです。

原因・理由:「テストが終わった{ので/から}遊びにいった」
判断の根拠:「寒い{から/ので}上着を着てくるだろう」

さて、上の二つの文はどちらも言えますね。

では次の文はどうでしょう?
1)
「どうして上着を着てこなかったのですか?」
○「家を出るときは寒くなかった{から}です」
×「家を出るときは寒くなかった{ので}です」

2)
○「誰も上着を着ていない、暑かった{から}だろう」
×「誰も上着を着ていない、暑かった{ので}だろう」

3)
○「寒い{から}、上着を着なさい」
△「寒い{ので}、上着を着なさい」

さて、作例が終わったら分析です。

それぞれどんな機能・役割を果たしているのか?どんな状況でどんな意味を伝えようとしているのか?それを考えます。

まず1)は疑問文とその答えです。
実は「ので」には「文の焦点」を表わせないという考え方があります。原因・理由を訪ねる疑問文の答えは、その原因・理由を表わす部分、話し手が知らなくて聞きたい部分がまさにその文の「焦点」になるのですが、「ので」では焦点がぼやけてしまうのです。

1)の文で、「寒い」という話し手が聞きたかった部分にフォーカスする文「〜は〜なんです」といった形では「ので」は使いにくい。しかし「〜です」を取り去って、単に理由を説明するだけにすると「寒かったので」というのは使えなくもない。

まあシンプルに言うと、理由を聞かれてそこだけ強調したいときに「ので」は使いづらいという感じですかね。

2)この文の特徴は?そうですね。さっきの書き込みにもありましたが、「モダリティ」(話者の主観)が文末表現として使われています。この場合「のだ」は使えません。

3)これは簡単ですね。命令文です。命令文のときも「ので」は使いづらい。

ただ、ソフトに言う場合(提案、勧誘)には使えなくもないです。

「寒い{ので}上着を着たほうがいいですよ」

そして分析からもうひとつわかったことは、「から」は広く使えて、「ので」の用法は狭い、ということもわかります。「ので」は言えるけど「から」が言えないという文はほとんどないような気がします。もしそういうペアを作れたら教えてください。

さて、だいたい違いは理解していただけたでしょうか?

もちろん人によって語感が違うので「オレは言うな」「いや、アタシはそうは言わない」「それフツーに言ってるし」なんて侃々諤々いろいろあるでしょう。

それに、こういうところにアップするためにだいぶ簡略な説明にしてあるので、もっと詳細に聞きたい人はフナツに個別に質問してください。

 

 

 

 


こちらは「日本語文法」(みなさんが中学校で習った学校文法とは違います、なぜ違うのかはまた書きます)についての書き込みです。

 (2014.3.6 tanakomo

 

先日の聴能の謝恩会で「今回の国試で言語学の問題がわけわからなくて・・・」という声がたくさんあって、ちょっとブログで解説しましょうかという話をしてきたので、何人がこのブログを読んでいるかわかりませんが、とりあえずひとつ、試しに解説してみます。

STとSTを目指している学生の方々、そしてフナツの日本語学(もしくは言語学)の講座を受けた人、日本語教育ボランティアの人たちはぜひ読んでみてください。

それ以外の人はスルーしてくださいね。
でも、知的好奇心のある人はチャレンジしてみてください。

問題43日本語の述語の形態素の連続として可能なのはどれか。

1、アスペクト ― ヴォイス ― テンス
2、ヴォイス ― テンス ― アスペクト
3、アスペクト ― テンス ― モダリティ
4、ヴォイス ― モダリティ ― テンス
5、テンス ― ヴォイス ― モダリティ

まず、この専門用語にとまどった人が多かったかもしれません。習ったけど忘れちゃった人も多いでしょう。これらはすべて日本語の文法カテゴリーを表わす用語でしたね。

そして問題文にある「形態素」というのは「意味を持つ最小の単位」でした。

たとえば「本箱」という単語を形態素分析すると「本」と「箱」に分けられます。どちらも意味を持つ単位です。しかし、「本」を「ほ」と「ん」に分けても意味を成しません。ということは「本」は「意味を持つ最小の単位」であり、「本箱」というのは二つの「独立形態素」から成る複合語ということになります。

動詞や形容詞はもう少し複雑なので簡単な例でいきましょう。

まず動詞は、いわゆる学校文法では「一段活用」動詞と言われる母音語幹動詞「見る」で考えると、「見」と「る」という形態素に分けられます。

「見」はlookという意味を持つ動詞の「語幹」(活用しても形が変わらない部分)であり、「る」は活用語尾で、時制(ここでは過去ではないこと)を表わす形態素ですね。

さて、読むのが嫌になってきた人もいるかもしれないので、問題を解くヒントになりそうな例文を以下に書きます。

「誰かに見られているらしい」
この文の述語を形態素(意味を持つ最小の単位ですよ!)に分けてみると、

「見」(動詞の語幹、その動詞の本来の意味を表わす部分)
「られ」(受け身を表わす部分)
「てい(る)」(その動詞の動作がどのような状態にあるかを表わす部分、ここでは継続)
「る」(時制を表わす部分、過去ではない)
「らしい」(話者の主観を表わす部分)

そして、選択肢にある用語を簡単に解説すると、
アスペクト:先行する動詞の動作がどのような状態にあるかを示す、例「ている」
ヴォイス:とりあえず「受身」と「使役」を表わすとここでは考えてください。
テンス:これは英語の授業でも出てきますね、「時制」です。
モダリティ:話者の主観を表わす。

さあ、見えてきましたね。

上記の形態素分析にあてはめてみると、
「見」動詞の語幹、「られ」ヴォイス、「てい」アスペクト、「る」テンス、「らしい」モダリティ、という順番になります。

答えは3です。

文法カテゴリーの順番は変えられないのです。
日本語を母国語とする私たちは無意識にその順番を守って文を作ることができるので、こんなふうにいちいち分析しながら発話することはないのですが、「言葉とは何?」という学問である「言語学」ではこのあたりを分析しているということです。

ためしに選択肢4、の順番で言ってみると、
「見」「られ」ヴォイス「らしい」モダリティ「る」テンス
「見られらしいる」なんて変な文になってしまいます。

好奇心だけでここまでおつきあいいただいた方、お疲れ様でした。

言葉を研究する分野である「言語学」とそれらを総合して学ぶ「日本語学」に少しは興味がわいてきたでしょうか?

そしてSTのタマゴのみなさん、また時間があったら(リクエストがあったらもちろん)他の問題も解説しますね。