フナツがこよなく愛する時代小説の作家たち

宮部みゆき『桜ほうさら』PHP学芸文庫  (2016.1.15 tanakomo)

上下巻に二話ずつ入って、合計四話楽しめます。

しみじみ味わい深い、宮部みゆきさんの時代小説です。

宮部さんの書く時代小説は、本当に心温まる読み物になっています。

「解説」にもありますが、決して主人公はヒーローじゃない。

剣術はからっきし、少々学問に秀でているというだけで、どこか貴い血を引く御曹司ってわけでもない。弱々しくて武士の鑑ってわけでもない。

だけど真っ直ぐで純で、周りの人が助けずにはいられない、そんなキャラの主人公が周りの人たちの助けを借りて父の死の原因となった真相に近づいていく。

そして、跳ねっ返りのヒロインとの淡い恋もあり、っていう、切なくも温かい「ミヤベワールド」が繰り広げられています。

そして、ミステリ作家の宮部さんのことですから、ラストは二転三転、伏線も巧妙に張られていて、謎解きの醍醐味も味わえます。

フナツが宮部さんの作品を好きな理由のひとつは、人物像に深みがあるところです。誰しも心に闇を抱えているわけですが、宮部さんは「良い面」「悪い面」というような二項対立にはしないんですね。

ある人から見れば「悪」の部分も、他の人の立場からすれば決して「悪」ではない。同じことが「善」にもいえます。

誰しも、愚かで賢くて、どす黒くて清らかで、でもその人なりに懸命に生きていて、ってそんな感じで物語が繰り広げられるわけです。

しみじみいいです。

宮部さんによるおなじような作品で「ぼんくら」とか「あかんべえ」があります。どれもいいです。

ちょっとお気に入りの部分を引用して「読んだ本紹介」を終えることにします。

***
 人は目でものを見る。だが、見たものを留めるのは心だ。人が生きるということは、目で見たものを心に留めておくことの積み重ねであり、心もそれによって育っていく。心が、ものを見ることに長けていく。目はものを見るだけだが、心は見たものを解釈する。その解釈が、時には目で見るものと食い違うことだって出てくるのだ。(下巻、P.182)
***

ではでは、

 

 

 

『居眠り磐音 江戸双紙51 旅立ちの朝』双葉文庫(2016.2.4 tanakomo)

とうとう完結しました。

最終巻、なんと51巻目です。

15年続いたそうです・・・。

このFacebookページでの tanakomo になる前の、エキサイトブログ上でのtanakomoから読んでいただいている方々は覚えていていただけるかと思います。(おお〜、エキサイトブログのことを考えると、フナツはもう10年以上もブログを書き続けていることになる・・・、まあそれはおいといて)

ここでも何回かこの作品のことを紹介したかなとは思います。

改めて、15年はすごいと思います。

51巻というのもすごいですが、15年も続いたシリーズそのものが素晴らしいですね。

始まりは、西暦が2000年と変わった頃、21世紀の始まりの頃ですか・・・。

フナツは何をしていたかなぁ。

ははは、また前置きが長いですね。

フナツはずっとこのシリーズを買い続け読み続けてきました。

主人公の磐音が独身時代、貧乏浪人を経て、妻を娶り、江戸でも名だたる道場の後継となり・・、あ、読んでない人は読んでね、って今から書こうと思っているのに、内容をバラすなよ、って感じですね。

著者の佐伯さんも書いてますが、最初は短編のつもりだったようです。それもけっこう悲劇的な。

でも、シリーズものとして書いて欲しいという出版社/読者の意向もあって書き続けたら、主人公や周りの登場人物が勝手に動き出したそうです。

途中から、とても明るい、読んでしみじみいいなぁ、っていう物語に変わっていきました。

あ〜、内容を書いていきそうなので、これでやめます。

以前にも、時代小説は苦手なぁと思っている人は、この作品で時代小説デビューするといいのに、と書いたことがあります。

みなさん、ぜひこの作品を手に取ってみてください!
おもしろいですよ。

そして、これも以前書きましたが、

え〜、51巻もあるの〜?!

ではなく、これから51巻も楽しめるなんてすごく贅沢です!

フナツも少々日にちをおいて、1巻から読み返してみようと思っています。

あ〜、もう続きが読めないなんて寂しい・・・。

 

 

 

『望郷の道』上・下(2015.1.18 tanakomo)


ただいま読了、興奮冷めやらずこれを書いています。

北方謙三さん、素晴らしい!!
作家として円熟の境地に達していると思います。

北方さんの現代を舞台としたハードボイルドものはあまり好きじゃないのですが、時代もの、特に南北朝ものや、三国志・水滸伝などの中国古典を題材にしたもの、武士や剣豪を扱った小説は本当におもしろくて、ほとんどの小説を数回は読み返しています(読み返すごとにまた感動しています)。

このブログでも何回も取り上げていますし、HPにも北方さんの本のブックレビューはたくさん書いてますが、この本はまた違う境地に達したなという感じです。

まず舞台が明治期の九州(全編九州弁です)、そして日本の植民地になったばかりの台湾。

そしてなんと北方さんの曽祖父であり、近代日本製菓史に足跡を残した新高製菓の創業者、森平太郎をモデルにした小説なのです。

2007年8月から2008年9月まで日本経済新聞に連載されていたので名前だけは知っている人も多いかもしれません。

北方さん自身のルーツを探る小説でもあり、力の入りようが違ったのでしょう。

とにかくおもしろい!

こんなに興奮し、ページを繰る手が止まらなくなった小説は久しぶりです。

本の残りのページが少なくなっていくのが悲しくなる、もっと読みたくなる小説でした。

(泣かせどころはたくさんあるのですが)最後の主人公夫婦が九州へ帰ってくるシーンは涙なしには読めません。ぜひラストの数10ページは一人になれるところで静かにハンカチ片手に読むことをお勧めします。

日本近代(の思想史や経済史)が専門のフナツにとって興味深い題材であり、ずっと北方さんの時代もののファンだったという事実を差し引いても、そして贔屓の引き倒しでもなく、たくさんの人にお勧めしたい小説です。

はぁ〜、感動の余韻冷めやらず、です。
(幻冬社さん、ホントに最近いい仕事してるぜ)




『白鶴ノ紅 居眠り磐音江戸双紙』(2015.1.8 tanakomo)

 

12月に『失意ノ方』47巻続けて(これはとても異例のことですが)1月に48巻目が出ました。


講義の前に立ち寄った丸善セントラルパーク店では、なんと平置き(本棚に入れるのではなく表紙が見えるように、お客さんが手に取りやすいように本棚の外側に積むこと)で、なおかつこの本だけで見える部分で6冊のスペース(普通が売れる本でも1冊分のスペースのみ)、それが10冊平積みだから、60冊が店頭に出ていました。この本だけでですよ!他の巻があるわけじゃない。この48巻だけで60冊!!

当然お店側としてはそのくらい売れると見込んでいるわけですね。

すごい・・。

だいぶ前から「12月・1月 続けて発刊」と宣伝していたのでとても楽しみにしていました。

物語も、これまでの忍従の日々から、とても明るい展望が開けてくる47そして48巻目なんです。読んでいてすごく楽しくて、あ〜もったいない、読み終えるのはもったいないと思いながら、あっという間に読み終えてしまいました。(ホントもったいない)

しかし、明るい展望というのが実は怖い。
なぜなら、作者はこのシリーズが軌道に乗った頃に「50巻を目指します」ということを言っていたんです。

みんなが幸せな大団円でもうすぐ最終巻??え〜、それはダメです!!

あ、ちなみに先日読んだ”THE WALL STREET JOUNAL”の日本リアルタイム JAPAN REALTIMEで、エレキテル連合の「ダメよ〜、ダメ、ダメ」が、”No way, No! No!" と英訳されておりました。

ま、それはおいといて、以前もこのシリーズの紹介のときに書きましたが、これから48冊も楽しめる人がうらやましい。

字も大きいし、読みやすいですよ。

通勤のお供に、寝る前のリラックスのために、ぜひこのシリーズを手にとってみてください。

 

 

遺文 吉原裏同心(21)』(2014.9.12)


NHKで放送が始まりましたね。

フナツは、イメージがこわれるのが嫌で実写版はほとんど見ませんが、これでこの小説がもっといろんな人に知られるようになっていくことはうれしいですね。


さて、もう21巻目です。

この作品は、好きだった幼なじみの不幸な結婚生活をしているのをみかねて、手に手を取って藩を出奔、逃避行の末に吉原を取り締まる会所に拾われ、剣の腕とその実直な人柄を買われて、吉原における「裏同心」(もちろん、表向き吉原を取り締まる公的な「面番所」とそこに駐在する隠密同心はすでに存在しているので「裏」つまり会所専属、吉原の自治・自警団を担うということです)となって活躍するという小説です。


実存した「御免色里 吉原」と、そこで働く花魁、他の遊女、そして茶屋、妓楼を経営する人々、下働きの人々、出入りの業者などなど、さまざまな様相、そして主人公の神守幹次朗の活躍、神守夫婦の情愛、それをとりまく人々との交流などを描き、読者を飽きさせません。佐伯さんの好評シリーズもののひとつですね。


この21巻は、19巻『未決』20巻『髪結』から続く一連の作品です。謎解きが3巻続いているという感じです。

(もちろんそれぞれの作品は独立して楽しめますけど・・)


吉原内での犯罪を幕府の上のほうからもみ消すように圧力がかかったり、吉原そのものを乗っ取られそうなほどの大きな力が迫り、会所頭取7代目の四郎兵衛までが瀕死の重傷を負うという状況、吉原の危機に主人公の神守幹次郎が活躍するわけですね。


佐伯さんの作品については、tanakomoでもたくさん書いてきましたが、独特の魅力があります。

佐伯さん自身が、読んでいる間だけは世の中の憂さを忘れてほしい、そして読み終わったらすぐに忘れてくれていい、読んでいてほんの少し幸せになってくれればいい、そして読んだことで何か自分の中に小さな灯がともったり、現実に立ち向かうためのほんの少しの勇気がわいてきたのならそれでいい、そんなふうに語っています。


この姿勢がフナツは大好きです。


世の中の悪を暴きだし現実を直視することを余儀なくさせるような素晴らしいノンフィクションがあり、人々の心に住む醜悪な部分を描く衝撃的な作品もあります。芥川賞とか直木賞その他、本屋大賞などいろんな賞をとった作品や、ベストセラーも世にありますが、フナツが読みたいのはそういうのじゃない。


まさに佐伯さんが話しているような作品が読みたいと思っています。


さらに、佐伯さんは読者が本を手に入れやすいように最初から文庫書き下ろしというスタイルをとっています。

通常であれば、まず装丁の見事な単行本(高いヤツね)、そして数年経ってからこれは売れそうだと出版社が見込んだものだけ廉価版の文庫にする、こういうやり方をしません。あくまでも佐伯さんが書いたらすぐに安く手軽に読めるように、ということなのです。


ずぅーっと続いてほしいなと思います。


もしほんの少しでも興味を持ったら、どれでもいいので佐伯さんのシリーズにふれてみてください。

そしたら10巻だろうが20巻だろうが、量は関係なく「そろそろ新しいの出ないかな〜」なんて待ち遠しくなっている自分に気づくはずです。

ほんの少しだけかもしれませんが、人生を豊かにしてくれます。




『再会 交代寄合伊那衆異聞』(2013.4.21 tanakomo

 

第十八巻です。

敵の手に落ちて、危機に陥った藤之助は脱出できるのか!そして玲奈は父と再会できるのか、交易はうまくいくのか!

1日の仕事が終わって、ビールを飲みながらこういう本を読むのが、すごく幸せです。

ここでよく取り上げている佐伯泰英さんのシリーズものです。キャラもお馴染みだし、すぐに作品の世界に入れて、ひとときの至福の時間を与えてくれます。

それでたったの600円!
文庫本ってホントお手軽な娯楽だとつくづく思います。

 

 

 

 

『散華の刻 居眠り磐音江戸双紙41』(2013.1.12 tanakomo

 

居眠り磐音シリーズも、はや41巻ですねぇ・・。

10月に出た「春霞の乱」40巻と、この本(12月出版)と、そして今月出た(明日買います)「木槿ノ賦」42巻は、磐音が生まれ育った関前藩の御家騒動を、三部作で描いています。

なかなか40巻を超えるシリーズだと(やっぱり最初から読み始めないといけないので)内容がこうでああで・・、で、おもしろいですよ、なんて簡単に書けないですねー。

主人公が大人になって、家族を持って、といった具合に、主人公が物語の中でどんどん成長していくんですね。

これもまたしみじみいいです。

よろしければ、(字が大きいのでけっこうすぐ読めます、老眼の人に優しい活字です)1巻から、磐音の成長といろいろな登場人物、歴史的背景などをお楽しみください。

いつも書いてますが、佐伯さん、身体をいたわって、シリーズを書き続けてください。お願いします。

 

 

 

 

『花世の立春 新・御宿かわせみ3』(2012.12.21 tanakomo

 

「新・御宿かわせみ」の新作が文庫になりました!!

このブログを読んでいただいている方々の中に、何人「御宿かわせみ」を最初から通読されている人がいるかわかりませんが、あえて書かせていただきます。

源太郎と花世が祝言をあげるんですよ!!

あの小さかった源太郎と花世がねぇ・・・、と親戚でも知り合いでもないのに(もっと言うなら実在の人物でもないのに)とても感慨深いものがあります。

「御宿かわせみ」そのものは、34巻あります。
舞台を明治の世に移した「新・御宿かわせみ」も三冊目です。

良質な時代小説を読みたいと思っている人、短い読み切りスタイルのミステリーを堪能したい人、江戸時代の人情物を読みたいと思っている人には、もうぜひお勧めの本です。

これから読み出す人は、なんと37冊も楽しめます!!
まだ新しいのは出ないのか、とか、もう全部読んじゃった、他にないの、なんてことで悩むこともありません。じっくりと楽しめます。

故藤沢周平さんのいくつかのシリーズもの(用心棒日月抄、獄医立花登手控え、他)、そしてまだまだ現役で書いていただいている佐藤泰英さんのさまざまなシリーズもの(居眠り磐音、吉原裏同心、他)と、この平岩さんのいくつかのシリーズもの(御宿かわせみ、はやぶさ新八御用帳、他)がフナツの風呂本ベストスリーです。

どのシリーズも何回読んでもいいんだよなぁ・・。

そうそう源太郎と花世の話でした。

何が書きたかったかというと、今回の主役である源太郎や花世が生まれる前からこの「御宿かわせみ」は始まっています。源太郎の父である畝源三郎、前作の主人公であった神林東吾の幼なじみで、良き脇役として登場した彼の若き日々から物語は始まっています。そして畝源三郎が、(源太郎の母である)お千絵と祝言を挙げる話も感動的でした。源太郎の生まれた日のことも当然物語では重要なエピソードでした。(どちらも泣けました)

そして、その源太郎が七歳の時に初恋をして(もちろん相手は花世、その頃からずっと好きだったんです)、それに事件がからんで、というエピソードの一作が「御宿かわせみ」の<23巻>に収められているのです。

で、現在トータルで37作目なわけですから、源太郎と花世が生まれる前の両親が結婚する前から、彼らが成長していくにつれてのたくさんのエピソードがこのシリーズには積み上げられています。読者はずっとこの二人の成長におつきあいしているわけです。一緒に年をとっているのです。

彼らの祝言の前後には、いろんな思い出が作品の中で語られます。

肉親や友達をはじめ、二人を見守るさまざまな人々が万感の思いで祝言のその日を迎えるわけです。フナツもその祝言を傍で見ていて、誰彼となく「おめでとうございます」とか「いやぁ、本当によかったですね」とか「二人が幸せになるといいですねぇ」なんてお祝いの言葉をかけたくなるくらいなのです。

そりゃもうみんなで酒飲むしかないっしょ、って感じです。

なので、アップしておきながら大変申し訳ないんですが、この本はこの本だけ読んでも特にここまで感動しないと思います。よくできた人情モノ&ミステリーなんですけどね・・・。

とても幸せな気持ちにしてくれる本だということで。

 

 

 

 

『春霞の乱 居眠り磐音江戸双紙』(2012.11.12 tanakomo

 

おなじみ、佐伯泰英さんの「居眠り磐音」シリーズ新作です。

40作目です。

つくづく、佐伯さん(と担当編集者の方々)はすごいと思います。

今回も楽しく読ませてもらいました。

欠点は、読むのを止める箇所が見つからないことですね。

ちょっと先週は出張もあって忙しくて、精神的な癒しを求めていたのかもしれません。

「ああ、もったいないなぁ」と思いながら、結局夕食の際(もちろん仕事帰りのソトメシの時です、ウチメシではそんなことしません)と新幹線でまるまる一冊読んでしまいました。

ホントもったいない・・。こういう本はじっくり楽しまないとね。

江戸に戻ってきた磐音の生活も徐々に落ち着いてきた今作では、以前仕えていた豊後関前藩のトラブル解決に走り回ることになります。

豊後からはるばる海路で江戸まで出てきた、磐音の母と江戸の家族との再会シーンはじんわり泣けます。こういう泣かせどころが佐伯さんは実にうまい。

このシリーズで「時代ものデビュー」でもいいと思います。
活字も大きいし・・。

 

 

 

 

『絶海にあらず』(2012.11.7 tanakomo

 

佐伯さんに続き、このブログでは定番の北方さんです。

ホント、読んでてスッキリするんです。
フナツのストレス解消の薬のようなものです。

実におもしろい。

フナツは電車に乗ってる時間とか、待ち時間、ちょっと空いた時間に退屈するということはありません。こういう本さえカバンにあれば、「あれ、もう着いた?」とか「もう順番が来ちゃった?もうちょっと後でもいいのに」なんて感じで時が過ぎ去ります。

ちなみに、フナツのカバンの中にはその日の授業のテキストや、こういう趣味本、仕事や講義のために読まなきゃいけない資料本、なんて感じで数冊必ず入っています(入ってないと不安)。

おまけに、MacBook AirとiPadが入ってるんだから、重いです、とっても。

さて、この本は、瀬戸内海で勃発した「藤原純友の乱」を描いたものです。関東で起こった「平将門」の乱とセットで日本史で習いましたよね。

たぶん以前exblogのほうでも紹介したと思います。
だから、たぶん、三回は読んでいるはずです。

テキトーに忘れていて、そしてテキトーに(おもしろかったことや場面は)覚えていて、うまい具合に楽しめるって感じです。

 

 

 

 

『夜桜 吉原裏同心』(2012.11.7 tanakomo

 

佐伯泰英さんの「吉原裏同心」シリーズ、新作が出ました。

もう17作目ですね。

御免色里(幕府の官許を得ている遊郭)「吉原」に起こる事件解決のため、神守幹次郎が奔走します。

風呂本としてちびちび読んでもすぐに終わってしまいます。

めちゃくちゃおもしろいとか、涙の感動ものとかってのではないんです。いつものキャラクターと似たような事件が起こって、おまけに主人公が死ぬはずはないと、そして事件は解決するものだと、最初からわかっているんですけど・・、まさに「水戸黄門」的な予定調和物語なんですが、それがまたいいんですね。

佐伯さんにはますます頑張っていただいて、楽しみを少しずつ長く味わえるといいなと思っています。

 

 

 

 

『黒龍の柩』(2012.10.26 tanakomo

 

新撰組の活躍と戊辰戦争を中心に据えて、北方さんが描いた幕末歴史小説です。

幕末の歴史は、徐々にですが、昭和から平成にかけて掘り起こされた事実などから、多少塗り替えられようとしています。

当然のことなのですが、薩長が中心となって打ち立てた新政府にとって、自分たちに都合の悪い事実は抹殺し、都合の良い事実だけを史実として残すことは至上命題でした。

とにかく、旧幕府が悪かった、旗本は情けなかった、徳川慶喜は戦から逃げた臆病者だった、薩摩や長州は倒すべくして幕府を倒した、などなど(もちろん、新撰組は殺人集団のテロリストだったなんてのもあります)、そういった新政府の威厳を高めるような噂を史実として広めることに腐心してきたといえるでしょう。

もちろん、旧幕府側にも言い分がありました。旧会津藩及び戊辰戦争で官軍に敵対した藩の子孫や身内の方々には、当時言いたくても言えなかったことがたくさんあったと思います。(ある古本屋さんの冊子にも書いてありましたが、会津もの、会津関連の古書は昔も今もとても売れゆきがいいそうです)

明治維新から150年ほど経って、そういったものが少しずつ明らかになってきていますが、そういう(未だ本当かウソかわからないようなものも含めて)エピソードを集めて、そして北方さんなりの工夫、フィクションも織り交ぜながら、「こういう見方もできるよ」という形で、たくさんの男の生き方(死に方)を描いた小説です。

おもしろいです。

エピソードに関して有名なところでいえば、
坂本龍馬の暗殺の真相(これはいろんな見方がありますが、フナツはこの小説に書かれた経緯が、一番辻褄が合うと思っています)、徳川慶喜がなぜあんなに戦うことから逃げたのかの理由(特に、なぜずっと謹慎していたのかをこの小説ではこんな解釈もあり!?なんて感じで書いています)、さらに(榎本武揚率いた)徳川海軍がなぜ負けたのか(これは詳細な事実が伝わり、たくさんの人が小説に書いていますが、北方さんはもっと内実まで掘り下げて描き出しています)など。

そしてこれも最近噂になっている西郷隆盛の実像。

みなさん、上野の公園にある、犬を連れた西郷隆盛像は本人じゃないってご存知ですか?それから、よく見る西郷隆盛の、あのギョロ目の写真、あれも現在は本人じゃないと言われています。そもそも西郷隆盛ってほとんどの人が顔を知らなかったらしいです。

これはまだ史実として認められていませんが、西郷隆盛は背が高くやせていて、目も細かったと言われています。

そういったメジャーなエピソードに加え、新撰組ネタもいろいろです。

高台寺党が実はどんな集団だったのか、近藤勇が捕まった理由、土方歳三はなぜ函館まで戦ったか、山南敬助はなぜ切腹したのか、などのエピソードを、これまで定説となっている史実を踏まえて、北方さんが味付けを加えて書いています。

特に土方歳三への思い入れが深いですね。すごくカッコ良く描かれています。

ちなみに、新撰組に関しては、浅田次郎さんの『壬生義士伝』、『輪違屋糸里』、そして『一刀斎夢録』も、とてもおもしろいです。新撰組好きな人には、以上の三冊もお勧めします。浅田次郎さんの「新撰組三部作」については、また改めて書きますね。

閑話休題

他にも、勝海舟や小栗忠順、村垣範正(北方さんは間宮林蔵も小説にしています、いわゆるお庭番です)などの旧幕府要人の思惑も書かれています。

そうです。この小説は、幕末に舞台をすえた(北方さんが描く)「男たち」の物語です。カバーイラストもカッコいい(百鬼丸という方が書かれたようです)。

 

 

 

 

『散斬』(2012.10.19 tanakomo

 

「交代寄合伊那衆異聞」シリーズの新刊が出ました。
もう17巻なんですね・・。

今度は幕末の日本に加え、上海に活躍の舞台を移して、座光寺藤之助が大暴れします。

一日の仕事が終わって、ぬるめの風呂につかりながら、こういう世の中の有象無象を忘れさせてくれる本を読みながらリラックスする。

こういう風呂本があってフナツは救われています。
佐伯さん長生きして、いろんなシリーズを続けてくださいね!!

 

 

 

 

『寂滅の剣』(2012.10.8 tanakomo

 

日向景一郎シリーズ5冊目(最終巻)の文庫版が出ました!!

以下にアップしたのは単行本のほうですが(内容の紹介を読んでほしかったので)、今月、文庫が出ました。

またまた北方謙三さんの本です。

このシリーズのことを知らない人も多いと思いますが、隠れた北方さんの名作です(もちろん好き嫌いは分かれるだろうな、とは思いますが・・)。

北方さんの書く歴史・時代小説には3種類プラスアルファがあります。

おなじみ(いつもフナツが絶賛している)『楊家将』、『三国志』、『水滸伝』などの、中国の歴史もの。

後醍醐天皇の皇子、懐良親王を描いた『武王の門』、足利義満とその後『陽炎の旗』、南朝の英雄『楠木正成』、婆娑羅大名佐々木道誉を描いた『道誉にあらず』、平将門の乱『絶海にあらず』、北畠顕家『破軍の星』、その他の南北朝もの。

また、北方版新選組『黒龍の柩』、間宮林蔵を描いた『林蔵の貌』、大塩平八郎の乱『杖下に死す』、相楽総三を中心とした幕末の時流に押し流された人物群像『草莽枯れ行く』などなど、幕末の人物とそれにまつわるエピソードを描いたもの。
(以上、どれも全部おもしろいです!!)

そして、上記のシリーズとはちょっと違う、この「日向景一郎シリーズ」という剣豪ものです。

このシリーズは、時代背景を江戸時代に設定したいっぷう変わったハードボイルドものともいえるでしょう。

とにかく主人公が強い、もちろん強くなっていく過程も物語の中で語られるわけですが、凄まじく人を斬る!斬る!数ページごとに人が斬られて死んでいく!

そんな小説です。

解説にもありますが、いわゆる昭和において流行った剣豪ものが、平成の世に蘇ったといってもいいでしょう。

主人公は、向かうところ敵なし、というより、悩み、もがき、そして普通では有り得ないような凄絶な経験をして、剣においては超人的な存在になっていきます・・。

はまる人は、はまる。なんかクセになる小説って感じだと思います。

シリーズ第一弾『風樹の剣』の単行本が出たのは、1993年らしいです(フナツはその文庫が出た年に初めて読んだのですが)。足掛け20年、楽しませていただきました。
(そうです、森之助が20歳になったら、景一郎と立ち会うことになっていた、ってそういう約束でしたね、読んでない人はわからないと思うけど・・)

『風樹の剣』、『降魔の剣』、『絶影の剣』、『鬼哭の剣』、そしてこの『寂滅の剣』、シリーズ5作、これから一気に楽しめる人がうらやましい。

 

 

 

 

楊令伝 4(2012.9.19 tanakomo

 

読んでいる本を途中でアップすることはまずないのですが、あえて書いています。

『楊令伝』、前の『水滸伝』より物語の設定がパワーアップしているのに加えて、『水滸伝』でのエピソードを上手に使って、泣かせるシーンが多いです。

北方さん、ホントにうまいなと思います。
書いているうちに(これまでの圧倒的なボリュームの作品群に加え、日本の時代もの、中国の時代ものを何十冊も書かれているわけですから・・)テクニックも磨かれてくるんですね。

『楊令伝』では、『水滸伝』の登場人物の息子や娘などが世代を越えて活躍するので、親子の絆や肉親の情愛などが特に描かれるようになっています。

三巻での、楊令の王母さまとの別れや、張横と張平の父と子の再会など。四巻での、花飛麟と母との再会、呼延灼の息子に対する想い、そして、鮑旭が地面に名前を書くシーンなどなど・・・。

ああ、読んでない人にさっぱりわからないことを書いて申し訳ありません。

とにかく、カフェとか電車で読めないんですよね。思わず涙してしまうので恥ずかしい。

やっぱり貴重な風呂本です。

 

 

 

 

『楊令伝』(2012.9.10 tanakomo

 

ふふふ、ははは、あっはっは!!

って感じです。(なんか変なヤツ・・)

そうです、先日書いた『水滸伝』の続編である『楊令伝』が、全巻(15巻+1)届きました。今日生協の書店に(やっと)取りに行ってきました(行けました)。

ああ、またこれを風呂本として至福の時が過ごせそうです。
と言いながら、もう早速大学からの帰り道で1巻を読んじゃいました。(なんともったいないことを・・)

うーーー、あのラストの激戦の生き残り、梁山泊の生き残りが、3年の時を経て、復活します。

また、登場の仕方がさりげなくて、カッコいいんだな、これが。

もう一冊目からすごくおもしろいです。
いろいろ主要な登場人物や、前作で亡くなってしまった豪傑の子どもたちが成長しつつあり、少しずつ重要なパートを担うようになっていくんです。

そして楊令はあれからどうなった??
おお?ひょっとして?ううむ、そうなのか?
って読んでいない人には全然わかんないですよね。

一人で興奮してすいません。

一日で読みすぎないよう、またちびちびと楽しみたいです。

 

 

 

 

『水滸伝 19』(2012.8.31 tanakomo

 

『水滸伝』最終巻(別本の「替天行道」は別にして)、ずっと読めないでいました。

どれだけ読むのを我慢しても、「今日はここまで」とちびちび読もうとも終わりは来るわけで、18巻まで読了。最終巻の19巻の途中まで読んで、そこで「読み終わりたくない」という思いが強くなってずっとそのままにしていました。

本当におもしろい本は終わってほしくないですよね。

しかし、実はこの『水滸伝』には『楊令伝』という続編があり、その文庫本が先日最終巻(全15巻、ブラス別本『吹毛剣』)まで出版されたのですね。

ええ、もちろん速攻で全巻注文しました。

いつもは「本やクラブ」のサイトでインターネット注文するのですが、『楊令伝』に関しては生協の窓口のお姉さんに「一巻でも抜けたら買いませんから、全巻注文しますから、全巻入荷したら連絡ください」って念を入れて頼んでおきました。

だってまだ(全巻入り)ボックス販売がないので、インターネットで注文して、数冊ずつ入荷されて、たとえば途中の巻が品切れなんてことになったら、全巻発売まで待ったことが無駄になってしまいます。

次の巻が読みたいのに手元に「ない」なんてのは絶対避けたい。

ははは、くどいですね。

ちなみに、『楊令伝』にも続編があります。『岳飛伝』といいます。だからまた安心して読めます。

話を『水滸伝』に戻します。

最後の戦闘シーンはすごかったです。
作者の北方さん曰く、「男の死に方を書くことは生き方を書くことである」

主要な登場人物が死ぬ度にほろっとくる。じんわり涙が出てくる。泣けるんだなぁ、これが。

このことに関しても、北方さんは、登場人物が勝手に動き出し、予想もつかない動き方をして、そして死んでいくと、別本『替天行道』に書いています。精魂込めた登場人物が死ぬたびに(北方さんが物語の中で殺すたびに)、北方さんは弔い酒を飲んで荒れていたそうです。

ラストシーンがまたカッコいいんだ。うー、カッコよすぎる。
どんなふうにカッコいいかは書きません。

ぜひそのカッコよさを知るためにも、ラストシーンまでたどり着いてください。

全19巻にビビっちゃだめです、一度手にとって読み始めたら止まらなくなります。

そしてある日、最終巻を前にして、まだ読み終わりたくない、もっと読みたいと思っている自分に気がつきます。

最初のうちは登場人物の漢字の名前が全然覚えられなくて困ったという読者からのクレームが多かったらしいです。でも、そのうちに気にならなくなります。

そしてそれぞれお気に入りの登場人物ができた頃にはどっぷり北方水滸伝につかっているという具合です。それに、原作の「水滸伝」を読んでなくてもいいです。むしろ読んでいないほうがいいです。

この水滸伝を書くモチベーションになったエピソードが、別本『替天行道』に書いてあります。(ちなみに「替天行道」というのは梁山泊に集まる男たちのスローガンで「天に替わって道を行う」という意味です)

水滸伝を書く前に、北方さんは三国志を書きました。(このことはこのブログでも以前アップしましたが)その北方『三国志』では(他の人が書いた「三国志」ではたいした扱いではない)呂布という人物をとてもかっこよく描いていて、その呂布の馬の名前が「赤兎」というのです(中国ではとても有名、広辞苑にも載っています)。

その「赤兎」にとても感情移入してしまったある女性からのメールに北方さんは感動します。彼女は『三国志』を読みながら「赤兎」頑張れと応援していて、そして毎朝駅へ通う自転車に「赤兎」と名付けて一生懸命ペダルを漕いでいるそうです。

可愛いですよね。

そのメールを読んだ北方さんは、たとえどんな試みであろうと読者の心の琴線にふれるのであれば「書いてもいいんだ、書くべきなんだ」と勇気づけられたそうです。

うーん、この本に関してもどんどん書いてしまいそうですね。

とりあえず、若い人たちに「読め!」と言っておきます。

生協のお姉さんに注文した、と、さっき書きましたが、実は学生らしきアルバイトの若い男の子が一緒にレジのところにいて、お姉さんがフナツに「<ようれいでん>ってどんな漢字を書くんですか?」と聞いたときに、後ろから「木ヘンの<よう「楊」>です」ってすかさず教えているのを聞いて、「ああ、この子も読んでるんだな」とうれしく思いました。

ひとつだけ残念だったのは、この『水滸伝』最終巻のラストシーンを読もうと決めていたある宿泊施設のプールサイド(以前も村上さんの本とか、好きな本のラストシーンを読んだ場所)が、プール取り壊しでなくなってしまっていたことです。せっかく行ったのに・・。(結局、海辺と帰りの新幹線の中で読みました)

パラソルの日陰で風に吹かれながら、そして涙がにじんでもすぐに水に飛び込めばごまかせる、とても気持ちのいい場所だったのになぁ・・。

まあ、いいです。
本を読むのは人生における大きな快楽のひとつですね。

 

 

 

 

『水滸伝 1』(2012.5.24 tanakomo

 

2012年に2回目なんだなぁ・・・、もちろん今(2014年時点)では3回目も終わっています。当然4回目でもきっとおもしろいと思います。あなたも北方水滸伝にはまってください。

 

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とうとう、また読み始めてしまいました。
二度目です。でもおもしろいです。

先日ここで「北方三国志」(北方謙三さんが独自の解釈をもとに書いた「三国志」)の紹介をしましたが、その三国志を上回るスケールです。

文庫は19巻、そして「北方水滸伝読本」が加わって全20冊!!
もちろん全巻揃った「ボックス買い」です。(¥12,600)

とにかく泣けます。

それぞれのキャラが際立っていて、まさに「男たち」の物語です。この「北方水滸伝」の全巻を読んだ人に「キミの好きな登場人物は誰?」と聞けば、たぶん、ほとんどの人が違う人物を言うんじゃないか、ってくらい登場人物みんなが魅力的なんです。

ちなみに、フナツがこの水滸伝を初めて読んだ感想が以前のexblogのtanakomoのほうに書かれていますが、フナツがどの人物を好きだって書いていたか、このtanakomoの古い読者は覚えているかな??そうです、楽和です、彼の出てくるシーンはホントに切ない。

19巻の中に100人以上のキャラが出てきます。それがそれぞれ違う魅力を持っているんです。もちろん、原作のとおりの人物もいれば、北方さんが味付けしたり、まったくそのキャラを創作した人もいるのですが、これだけのキャラを書き分けた北方さんのパワーはすごい!の一言です。

もともと「水滸伝」そのものは、「三国志」以上にいろんな豪傑が入り乱れ、史実と違う部分もあり、後世に誰かが書き足したり改作したりとなんか「ごちゃまぜ」っていう雰囲気があったのですが、北方さんがそれをひとつの壮大なストーリーに仕立て上げたわけですね。

お風呂で読み、寝る前に読み、ちょっとした空き時間に読み、ということで、うっかりすると睡眠時間を削って一日に文庫一冊を読んでしまうので、「だめだめ、ゆっくり味わって読むのだ、一日に多くても文庫本半分しか読んじゃダメだ」と自分にいい聞かせながら読んでいます。

一日一冊読んでたら、たとえ19巻あっても一ヶ月もたないですから、そんなのすごくもったいない。

外へ持ち出して、電車の中や仕事の空き時間でも、なんてとんでもない!!

家に帰ってのお楽しみ、仕事を終えたご褒美なんだ、と言い聞かせながら本を開いています。

読んだ人ばっかりが集まって、あそこのシーンがよかったね、とか、やっぱり誰それが好きだ、なんて語りあう飲み会があったら最高だなぁ、と思うフナツでした。無理かなぁ・・。

 

 

 

 

『野望の王国』(2012.5.21 tanakomo

 

これは時代小説ではないんですが、佐伯さんの作品ということで、ここで紹介します。

 

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「居眠り磐音」シリーズその他で、いつも時代物の書き手としてここで紹介している佐伯さんの、時代物を書く以前に書いていたスペイン関連の作品です。


佐伯さんが、闘牛関連などのスペインものを以前書いていたのはだんだん知られるようになりましたが、こういった作品では芽が出ず、編集者から持ち込まれた「時代物を書いてみないか」という要望に応えて苦し紛れに書いたものが大ヒットして今に至るという経緯のことを以前ここでも書きましたが、時代物以前の佐伯さんの作品を読むたびに、「なぜ売れなかったのか??」と思ってしまいます。すごくおもしろいのに・・。


結局はプロモーション不足と、実績のある作家の作品は手に取ってもらえるから売れるけど、実績のない作品はたとえおもしろくてもなかなか手に取ってもらえないから結局あまり売れなくて、そしてあっという間に本屋さんの棚から追い出されてしまうって感じなんでしょうね・・。


うーん、そういうのは世の常だから、まあしょうがないけど。
でもこの作品はジェフリー・アーチャーかクライブ・カッスラーの冒険ものにも劣らない大活劇なんだけどなぁ。

 

 

 

 

『花のあと』(2012.4.5 tanakomo

 

風呂本です。


仕事が終わって帰宅して、ゆっくりリラックスのために湯船につかるときに一作ずつ読むのにちょうどいい短編集です。

 

もう、何回読んだだろうという本ですが、いい本は何回読んでもいいです。

 

1974年から1985年にかけていくつかの雑誌に連載されたものが1985年に単行本として出版され、文庫になったのが1989年。サイトの本の紹介にも書かれていますが、藤沢周平の円熟期と

でもいう時期に書かれた秀作ぞろいです。


時代小説っていいな、日本人でよかった、としみじみ思います。

 

 

 

 

『血涙』(2012.2.29 tanakomo

 

先日アップした『楊家将』の続編です。
文庫になってお安くなりました。
上下で¥1400足らず、至福の数時間を思えば、本ってホントに安いと思います。
結構前に北方さんの『三国志』のこともアップしましたが、時代的にはその後、この『楊家将』『血涙』ときて、そしてあの大作『水滸伝』そしてその続編『楊令伝』とつながっていくのです。
血湧き肉踊るって表現がぴったりのこれらシリーズ、お勧めします。

 

 

 

 

『晩節』(2012.1.23 tanakomo

 

よくこのブログで紹介している佐伯泰英さんの著作「密命」シリーズが終に最終巻を迎えました。全部で26巻です。
このシリーズは、佐伯さんの初めての時代小説であり、これを書き始めた頃、佐伯さんは現在のような人気作家でもなく「文庫書き下ろし」という出版界でも当初業界の掟破りといわれた手法の最初の本ということもあったのでいろいろあったみたいです。
そういう意味では(今では売れた本が累計一千万部を越えようかという超人気作家となった)佐伯泰英という人気時代小説家を生み出したきっけとなった記念すべきシリーズであり、私たち読者にとってもちょっと本ではないかと思います。
さらに、この時代小説が売れるようになったのは、以下に佐伯さん自身がその頃を回想する「あとがき」も引用しますが、単なる剣豪モノでもなく、歴史を語る(新たな視点から歴史の闇に光をあてるような)作品でもなく、「家族」をテーマにした作品だということが大きいと思います。
この「密命」シリーズは剣戟場面、ミステリの要素、時代背景など普通の時代物が含むポイントは当然押さえてありますが、それよりも主人公の金杉惣三郎とその家族、そしてその家族を取り巻く人間関係がとても細やかに描かれているんですね。
シリーズが版を重ねるごとに家族やその周りの人間も成長し、大人になり結婚して、といったことが書き込まれていくわけです。そして、シリーズの後半は成長した息子、金杉清之助の物語でもあるんですね。この清之助もけなげな幼年時代から反抗期で自堕落な思春期を経て、修行に打ち込む青年時代へとシリーズを追うごとに成長していきます。
少し「あとがき」を引用します。

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『密命』完結に記す
初めて書いた時代小説が『密命 見参!寒月霞斬り』だった。
出版界で生き残るための方策として文庫書き下ろし時代小説に着手したのだ。グランドデザインなんてなにも考えてなかった。むろんシリーズ化が確約されてのことではない。運よく初めての増刷がかかり、第二巻へとつながった。一巻一巻が勝負で、シリーズ四、五作目のころ、前編集長に呼び出され、他の設定の時代小説を書かないかと打診を受けた。
予測されたことだった。なぜならば私が書かんとしていた時代小説は剣豪小説を主眼にしながらもある種の家族小説を考えていたからだ。主人公の金杉惣三郎には忠義を尽くす主もいれば家族もあった。当然、奉公と剣と家のしがらみの中で漠然と、「父と子の物語」を主眼に据えていた。
(中略)
編集者と作家、方針が相反するわけだから、打ち切りの打診があったのだ。だが、私はようやくシリーズが動き始めようという時の方向転換に納得できず、もう少し書き継がせて欲しいと願った。
物語が動き始め、累計部数も伸びてきたのは六、七巻あたりからではないか。
峰氏(中略部分で話題に出た人気シリーズを持ちながら急逝した時代小説家で、佐伯さんは同じ設定でこの人の続編を書かないかと打診された)が書かれた日本社会はまだバブル末期、日本人、特に男性が自信を持って経済商業を強引に引っ張り、右肩上がりの成長と増収を信じていた時代だった。だが、バブルが弾けた90年代後半は、日本人が一気に自信を喪失し、居場所をなくした時代だった、
そんな時代に読者が求める剣豪小説のヒーロー像とはどんなものか。仕事では自信を喪失し、家庭に居場所を失った企業戦士(武士)が何に慰撫を求めればよいのか。
私の中で漠然とした『密命』の方向性が生まれた。
文庫書き下ろしという出版形態が私に馴染んだか、出版界も背に腹を代えられずこの業態に参戦してきた、だが、まだまだ中堅出版社の冒険であって、老舗の文芸出版は手を出さなかった。
(後略)
***

佐伯さんは忙しすぎて一度倒れました。
そのときにいろいろ思うことがあったのでしょう。このあとがきの一番最後にも「人間はいつか死ぬ、ただ死の時がそれぞれ、不分明だ。このようなあとがきを書くことの出来ないシリーズもあるかもしれない。『密命』は完結のピリオドを打つことが出来た。なんとも幸せなシリーズではないか」と述べて、読者への感謝でこの「あとがき」を結んでいます。

 

 

 

 

『三国志』最終巻(2011.11.8 tanakomo

 

時代小説はちょっとムリかな、って人でも、たとえば「三国志」のことならなんとか知ってる、昔ちょっと読んだかもしれないって人もいるかもしれません。この本は、その有名な「三国志」を北方謙三氏が絶妙な味付けをして現代によみがえらせた本です。人呼んで、北方<三国志>!!
以前から、北方さんの本はたくさんこのブログで紹介してますが、北方さんの現代を舞台にしたハードボイルド小説は、おもしろいけど今ひとつ感情移入できなくて、その作品の舞台が昔の日本や中国に移ったとき、北方さんの本領が充分に発揮されているという感があります。
一冊たった600円ですよ!!たったそれだけの値段で極上の数時間が手に入ることを思えば安いものです。1巻から13巻まで、きっと一気に読む人が(読みたくなって読んでしまう人が)出てくると思います。全巻箱買い(大人買い)してもいいと思います。呂布(のことを北方さん自身の造形で描いたところ)が泣ける・・。

 

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ちなみに、(2014.4.25時点で)風呂本としてまた読み返しています。