その他

タルマ・ローベル『赤を身につけると なぜもてるのか?』池村千秋訳、文芸春秋(2016.2.29 tanakomo)

 

はじめに、「五感が操る私たちの世界」とあります。

 

服装・アクセサリー、小物に赤を配すると「モテる」そうです。

 

本の帯からちょっと引用してみます。

**

・暖かい飲み物を持つと、目の前の人を「温かい人」だと感じてしまう。

・柔軟な交渉と強硬な交渉を分けていたのは、座る椅子の硬さだった。

・心に重荷を感じると、本当に体も重くなる。

・テスト中に赤色を見ると、成績が際立って悪くなる。

・選挙に勝った政治家は、選挙前より背が高く見える。

・心の汚れは除菌シートで落ちる。

・財布のヒモが緩む匂い、脚が早くなる匂いがある。

**

 

いかがでしょうか?

 

私たちは自分たちが思っているより「感覚」の影響を受けていて、自分では理性的な判断をしているつもりが、外界から受ける感覚がかなりその判断に影響を及ぼしているらしいです。

 

著者は、テルアビブ大学社会科学部心理学科の教授で、書いてあることも、実績のある世界的に有名な大学の研究/実験結果の引用です。

 

ここで提唱されているのは、心理学の大革命(と、この本には書いてある)「身体化された認知」(“Embodied Cognition”)です。

 

「人はたいてい、みずからの行動を自分でコントロールしていると思いたがる。だから、一見すると関係ない環境的な要因と物理的な感覚が自分の行動にたえず影響を及ぼしていると聞くと、落ち着かない気分になる。新しい心理学によって明らかにされはじめた事実は、私たちの常識に反するものだ。だからこそ、私はそれに魅了されたのである」(p.13~14

 

「感覚」が私たちの判断や行動を生み出しているんですね〜。

 

「私たちは毎日、温度、手触り、重さ、音、味、匂い、色など、数え切れないほどの物理的な感覚から影響を受けている。私たちの判断や行動は感覚の世界に強く影響されており、ときには、判断や行動そのものが感覚の影響によって生み出されている場合すらある」(P.14~15

 

訳者あとがき、から、

**

・仲間外れにされた人は、体温が下がる。

・重大な秘密を抱えている人は、目の前の坂が急坂に見える。

・サングラスをしている人は、お金を独り占めする。

Lサイズのコーヒーを買うと、大物だと思われる。

・シャワーを浴びると、テストの自己採点でズルをする。

・裸電球の前で考えると、独創的なアイデアが浮かぶ。

P.274

**

 

ははは、いかがですか?

もっと衝撃的な実験結果がこの本にいろいろ書いてます。

 

二冊の同じ重さの本を両手に持ち、片方の本を指して「こちらは大学の先生が書いた専門書で重要なことが書いてあります」と言い、もう片方の本には何も言わない。そうすると、重要だと言われた方の本が重たく感じるんですね。

 

おもしろかったです。

 

ただ、惜しむらくは、本人も「一般向けの本が書いてみたかった」と言っているように、専門書しか書いてこなかったその文体が残っていて、本文が、なんというか、読みにくいです。

 

きちんと内容を理解して覚えて、自分の仕事に活かそうと考えている人は(著者はビジネスの分野でひっぱりだこです)、買ってじっくり読んだ方がいいですが、え〜おもしろそう、と思った人は本屋さんで、各章のまとめを読んだ方が早いです。

 

内容は非常に知見に富んでいます。

フナツもいろいろ使わせてもらおうと思ってます。

 

さて・・、しかしまあ、英語での原題が、

 

“Sensation: The New Science of Physical Intelligence”

 

なんですけど、

 

それが日本語訳になると「赤を身につけるとなぜもてるのか?」になってしまう・・・。

即物的というかなんというか・・・、すごい意訳ですよね。

 

う〜〜ん、日本のほうが本の題名設定にちゃんとマーケティング手法を用いていて、売り方が上手ということなんでしょうけどね〜〜。

 

確かに原題を日本語に直訳するとすごく固めの題名になるし、フナツもこの日本語題名に惹かれて興味持ったのでプラスに働いているといえばいえます!

 

ではでは、

 

 

 

『地方にこもる若者たち』(2015.1.8 tanakomo)


今朝、生協南部書籍に注文してあった本を取りに行って(いつものように「10数冊の幸せ」を取りに。時間ができたらそれらの本のことはまた書きますね)、書棚にあったのでふと手に取って買い、帰りの電車の中で読んだ本です。

内容そのものは、ぜひ紹介したいオススメ本というわけじゃないのですが、(現在、歴史、未来と三部になっている中の)現在篇の分析がとてもおもしろかったです。(残念ながら歴史篇、未来編はいまひとつ)

副題が「都会と田舎の間に出現した新しい社会」

本の帯には「地方都市はほどほどパラダイス」「満員電車、高い家賃、ハードな仕事・・・もう東京には憧れない」とあります。

題名の「地方にこもる」というのは、現代の若者は都会でもなく田舎でもなく、「地方都市」がいいというわけですね。

その象徴としてイオンモールがあげられています。

フィールドワークの場所となったのが岡山。そしてイオンモール倉敷。著者の阿部さん(いわゆる新進気鋭の社会学者)は、岡山県全域からこのイオンモール倉敷に余暇を過ごしに来る若者を以下のように書きます。

***
イオンモールから離れたところに住んでいる若者にとって、イオンモールに行くことは「遠足」のようなものである。(中略)彼らにとって、それは楽しむ場所のない家のまわりを離れ、1日かけてドライブを楽しみ、ショッピングを楽しみ、映画を楽しみ、食事を楽しむことのできる、極めてよくできたパッケージであり、まさしく「遠足」と呼ぶにふさわしい余暇の過ごし方なのである。(P.25) 
***

現代の若者の「ほどほどパラダイス」、コンビニもない田舎でもなく、刺激的だけど住むにはつらい都会でもない「地方都市」。車で少々走れば楽しめる「自然」が近くにあり、お祭りが存在できるだけの地域コミュニティは残り、そして全国チェーンになっている有名な店も、車を走らせればすぐに行ける場所、それが「地方都市」。

親と同居するかもしくは安い物価と家賃によって余裕ができ、町内会や商店街といった昔ながらの大人からの「雑音」とも離れ、気の合う地元の友人たちと「ほどほどに」楽しめる場所、それが地方都市であり、その象徴がインモールというわけです。

そして、(実はこれが書きたくてこの記事をアップしました)現代の若者、ショッピングモール世代の若者の「懐かしい風景」とは何か。

著者が講義で「地元と聞いて思い出すものは何ですか?」と学生に聞いたとき、学生から飛び出した答えが「イオン」「ミスド」「マック」「ロイホ」なんですね。

「人は、それが何であったとしても、生まれたときから慣れ親しんだものにノスタルジーを抱くものである」(P.86)

小さい頃の思い出・・・、
「お父さんやお母さんと行ったショッピングモールにあったミスド」
なんだろうなぁ・・・、今の若者にとっては。

ミスドが故郷の思い出の場所になる時代なんですね〜。

興味を持った方は本屋さんで前半だけパラパラするといいです。



『やめないよ』(2014.8.1 tanakomo)

 

ご存知、キング・カズこと三浦知良さんの本です。

まずは本の帯から、

「上を向いている限り、絶対にいいことがあるんだ」

カッコいいでしょ!?

最近、ちょっとトシかな、オレも(アタシも)、なんて落ち込むことがあった人には、特にお勧めの本です。

フナツはちょっとキング・カズのことを過小評価してました。
サッカーバカで、私生活や服装がちょっとチャラチャラしてて、まあいわゆる有名なアスリートの1人だろう、くらいに思ってました。

が、違いました!!

すごくいいこと書いてありました。

ちなみに、この本は「サッカー人として」というタイトルで日本経済新聞に隔週で連載されたコラムを一冊にまとめたものです。

「あとがき」にも書いてありますが、このコラムがきっかけで三浦さんはいろんな企業経営者の方に声をかけられたとのこと。きっとたくさんのビジネスマンを勇気づけたことでしょう。

またまた少々本の帯から、
***
「常にその時点でのベストを目指す姿勢でいたい」
「人生は、いつの瞬間だって挑戦なんだ」
「自分がこの先どうなれるのか、考えながらサッカーと向き合い続ける」
「今でも自分がうまくなれる感触がある」
「戦いは厳しくても心は豊かに保ちたい」
「僕は学び続ける人間でいたい」

 四半世紀にわたるプロ生活から生まれる、筋金の入った言葉の数々
***

フナツは特にサッカーが大好きというわけじゃありません。
もちろんワールドカップは観てましたけど(スーパープレーやすごいゲームが観れて今回も感動しました!)。

特にカズのファンだったこともありません。
だから贔屓してるわけじゃなくて、本当に読んでよかったと思っています。

文章もなかなかいいんです(校正は入っていると思いますが)。

プロのリーグで活躍しながら、ちゃんと原稿を字数通りにまとめて、起承転結が入っていて、そのときのテーマごとにちゃんと筋の通った(オチまである)文章を書き続けられた、これだけでもすごいと思います。

最後に、フナツが好きなところを引用して終わります。

「1センチでいいから前へ進むんだ」(244ページ)

まず三浦さんはプロ選手の契約の厳しさを象徴するようなエピソードを書き、判定にだって文句をつけたくなるものだとします。しかし、不満はあっても不満に終始し、放棄するようならプロとして終わりだと書き、次のように述べます。

***
・・・・
 17歳のころ、ブラジルで悩んでいた僕は諭されたものだ。「僕はいつだって考えている」「考えるだけで止まっている人間はたくさんいる。お前もそうだ。考え、悩め。でも前に出ろ」
 失敗して、人生のレールを踏み外すこともある。その時も、フラフラでもいいから止まるな。「一気に100メートル進まなくてもいい。カズ、1センチでいいから前へ進むんだ。考えるだけではダメだ」。今も胸に残る。
(中略)
 学ばない者は人のせいにする。学びつつある者は自分のせいにする。学ぶということを知っている者は誰のせいにもしない。僕は学び続ける人間でいたい。(2011.11.5)
***

プロローグだけでも本屋さんで立ち読みしてみてください。

 

 

 

 

『逆境を乗り越える技術』2014.7.22 tanakomo

 

本の帯に書かれてある文章がカッコ良くて買っちゃいました。

「苦境脱出のために必要なのは精神論ではなく、リアルな“技術”である」

 

本の題名、そのままです。ためになります。

ちょっと仕事に恋愛にその他諸々苦しんでいる人、お買い得です。

 

佐藤さんってホント強面なんだけど、知的で、そしてリアリズムに徹しているので好きです、というか尊敬してます。

 

リンク先の「内容紹介」にもありますが、表紙裏から引用します。

 

「ともに東京地検特捜部に逮捕され、有罪判決を受けた外交官と衆議院議員。長期間の検察の取り調べに毅然として臨み、佐藤氏はその後、作家として大活躍。石川氏は議員辞職し最高裁へ上告中である。順風満帆だった二人の目の前に突然現れた、とてつもない逆境。今まさにその真っただ中にいる石川氏が、その逆境を乗り越えてきた佐藤氏に生き残るために何が必要なのかを問いかける。今、苦境に陥っている人へのリアルなアドバイスが満載。弱肉強食が進む現代、いつ訪れるかわからない逆境に備えるための貴重な一冊が誕生した。これはまさに、サバイバル人生論である」

 

佐藤さんの本は、ここでは『交渉術』(2011.9.16)を紹介しました(HPでは、ビジネスの参考文献②)。北方領土返還にまつわる外交での虚々実々の駆け引き、人間は何で転ぶのかが詳細に書かれた本でしたが、この本もやはり自らの経験と豊富な読書量に裏付けられた知識でもって石川さんの問いに応えていきます。

 

いくつか紹介しましょう。

 

・短気はダメ。ときの流れというものがある(P.68

佐藤さんは「運命の巡り合わせが悪いときは、その巡り合わせの悪さが解消されるまで、じっと我慢する。これはけっこう重要なことなのです」と語り、そして旧約聖書の中の「コレへトの言葉 三章一節〜一七節」を引用します。(佐藤さんは大学のとき神学部なんです)

 

この引用が実にいいんですが、長くなるのでぜひ本屋さんで立ち読みしてみてください。

 

そして、仏教でも言われているといいます。

逃れられない、定められた運命というのがある、それは仏教で言えば「過去の因果」なのですが、ところが「将来のことは現在の組み立てで変えることができる」この言葉が迷っている人に希望を与えてくれると佐藤さんは言います。

 

・説明はダメ、嘘もダメ(P.102

ここは検事とのやりとりの話ですが「説明してしまうと、こちらの防御の手の内をさらすことになる」と佐藤さんは言います。何か窮地に陥ったときに参考になるような意見です。そして、「嘘をつくな」と言います。「なぜなら嘘は記憶しないといけないから」コレはまさしく目から鱗ですね。嘘は辻褄を合わせることが大変で、結局嘘に嘘を重ねることになってもっとひどいピンチに追い込まれます。嘘は覚えておかないといけない。だからもっと大変になると・・。

 

・夢はふたつに分ける必要があります(P.116

まずは仕事に関する夢、そして趣味など仕事以外のところでの夢。

そしてさらにこのふたつの夢をそれぞれふたつに分けるのです。

「天井がある、努力すれば必ず実現できる夢」と「天井がない、終点がない夢」。

 

たとえば(これはフナツが考えた例ですが)、「○○で社会に貢献する」←これは天井がない。「TOEIC900点をとる」←これは天井がある。

 

さらに、第二部「平時逆境に備え、やっておくべきこと」の中で、

・日本はファシズムの経済政策に近づいている(P.190

今、共産党系の全労連が打ち出しているスローガンが「まさしくムッソリーニのファシズムの考え方と酷似している」と佐藤さんは言います。そして資本主義の実態やこれからどうなっていくのかなどを話します。お得意のマル経(マルクス経済学)の話もたくさん出てきます。

 

ああ、ダメですね。終わらなくなりそうなので引用はこのあたりで。

お金のこと、友達のことなどさまざまな面からの、苦境に陥っている人へのアドバイス本です。自己啓発やノウハウ本として読むのではなく、普通に読み物としてもおもしろいです。

 

 

 

 

 

『聞く力』(..tanakomo)

 

ベストセラーだからって読んだら・・っていう本の典型ですね。

あえて自戒をこめてここにアップしておきます。

 

**

フナツはあまりベストセラー本が好きじゃないので、出来る限り遠ざかるようにしているんですが(ある知人曰く、「それはオジサンになった証拠だ」)、アガワさんのことはけっこう好きだし、そして売れているということは支持されているということなので、そしていろんな場面でコンサルティングすることが仕事柄多いので、新幹線の中で読んでみました。

うーん、なぜ買って読んだかということを長々と上に書いたので薄々は気づいている人も多いと思いますが、この本を「聞く技術」の解説本であるとか、ビジネス書の流れであるといった認識で読むとちょっとがっかりします。

そうではなくて、
「アガワさんの、相手から話を引き出すテクニック」(つまりアガワさん自身の資質や人柄に依存する部分が多い)と、アガワさんがインタビューしたさまざまな有名人のエピソード集として読むなら「ああ、おもしろかったぁ」になると思います。

そういう読み方をすれば楽しめると思います。
歯切れが悪くてすいません。でもアガワさんのことは好きなので全然OKです。

 

 

 

 

『女性は話し方で9割変わる』(2012.8.24 tanakomo

 

『人は「話し方」で9割変わる』の福田健さんの本です。
『〜は「話し方」で9割変わる』シリーズの中の一冊ですね。

読みやすいし、けっこうためになることが書いてあります。
ぜひ店頭で手にとってパラパラしてみるといいです。

世の中に「話し方」のセミナーはたくさんあります。

この本も、最初に売れた本と同じようなことが書いてありますしごく当たり前のことが書いてあるのですが、でもこういったことを日常の生活の中で、そして仕事の場で気をつけていくことによってその人自身の魅力が高まり、コミュニケーション能力が上がるのも確かです。

本を読んですぐに変わるのではなく、ここに書いてあることを日々実践することでいろいろなことが変わっていくと思います。

フナツも声のWSをもっと発展させ、受講者の方々のコミュニケーション能力を上げたいと思っています。

また新しくバージョンアップしたWSを考えているので、乞うご期待!!

 

 

 

 

『臨機応答・変問自在』(2012.3.3 tanakomo

 

以下は、2007年7月にexblogのほうに書いた記事を、2012年3月にfacebookPageにアップしたものです。


******

7月1日

 こんな暑い日が続く毎日なのに、こんな日には海に行くのが一番いいのに、海に行けない日々を送っていたフナツです。

 特に先週はここ数ヶ月で一番忙しくしていました。
 でも、なんとか乗り切れたので、今週からは幸せな7月です。また生活のペースが元にもどります。また蝉の声を聞きながら図書館でパソコンをパタパタの日々が戻ってきます。

 しかしなー、スタバの店員にはほんとうに腹が立ちます。もう三回(三店?)連続で、こちらが何回も「ホット」って言ってるのに「アイスでよろしいでしょうか?」って最後に聞くなよなぁ!!夏に「ホット」を注文しちゃいけないのかぁ!って感じです。

 (スタバの)アメリカーノにアイスがあったなんて初めて知りました。
 アイスのアメリカーノ?「なんだ、それ?」って世界です。
 今までアメリカンとアイスコーヒーは別物だと思ってオーダーしていました。

 それから紅茶の銘柄まで指示してオーダーしてんのに(スタバは銘柄まで聞いてくるのでいちいちうるさいからオーダーのときは必ず指示してるのに)また「アイスでよろしいでしょうか?」って最後に聞くなよなぁ・・、「アイスティーにも銘柄指定してんのか?」って文句を言いたくなります。

 きっと店員も毎回毎回アイスの注文ばかりで機械的に発話してんだろうなぁ・・、夏のスタバは疲れます。

 と、文句で始まってしまいました今日の書き込みです。
 すいません、ちょっとストレスがたまっていますね。

 今日の本です。(って、ひょっとして以前にも書いていたらごめんなさい、まだ紹介していなかったと思うんだけど・・)

情報:森博嗣『森助教授VS理系大学生 臨機応答・変問自在』集英社新書、2001年

 『すべてがFになる』などの数々のミステリィ小説で有名な著者は、某国立N大学助教授にして云々と本の帯に紹介されていますが、実は、名大工学部の先生です。

 ちなみに、フナツはまだ(名大の生協の書店には平積みになっている)森先生のミステリィ小説を読んだことがないのですが、この臨機応答シリーズは大好きでよく読み返します。

 学生の質問に対する森先生の回答が実におもしろいのです。

 そもそもこの本の成り立ちは、森先生が学生に質問をさせることで出席をとり、その質問によって成績をつける(試験はしない、学生が望めばその学生にだけテストを作ってくれて採点をするらしい)というところから始まっています。

 それら学生からの質問をワープロで打ちなおし、森先生自身の答えを書いたプリント(えー、ちなみに、このプリントという言葉は英語ではなく日本語です、英語ではハンドアウトといいます、閑話休題)を配布するという授業から生まれたものです。

 学生に質問をさせるというのは、授業の理解度を評価し、自主性や創造性を高めるのに役に立つという森先生の考えから来ているのです。

 森先生は以下のように書きます。

***************

 たとえば、就職の面接で「何か、質問はありませんか?」と面接員に尋ねられたとき、的確な質問ができるかどうか、そこで評価される。準備された解答を暗記して、それを正しく再生する能力ばかりが期待されているのではない。会話の中で、議論の中で、何が不足しているのかを常に意識し、それを的確に把握して質問をする能力が重要であり、つまり問題を考える行為に集約される。

****************

 問題に答えることより、問題を作るほうが何倍も難しいわけですね。問題を解くことも必要だが、問題を提示できる能力も重要だということです。そして、「人は、どう答えるかではなく、何を問うかで評価される」という森先生の考えが、毎回授業で学生に質問を考えさせ、提出させることで成績をつけ、単位をあげるという授業になっているわけです。

 さらに、最初から「何か質問してやろう」という意気込みで講義を聴くことが、少なからず効果があるということも森先生は書かれています。当然ですよね、口を開けていない雛鳥に餌は与えられない。昨今の教育の現状として、受け手が口を開けて求めている以上に、情報が流れ、物が与えられているという状況があります。

 「学生からの質問は、受け手の姿勢を観る最も単純なサインとなるだろう」とも森先生は書いています。

 そして、これら学生からの質問はほとんど授業の内容に関するものなのですが、5%くらいはまったく専門外の一般の人が読んでも面白いものなので、それらをピックアップしたのが、この本の内容です。

 いくつかその問答を引用しますね。

*森先生自身への質問
Q、小説家になるにはどうしたらいいのでしょうか?
A、小説を書くことです。
Q、先生は学生に対してどのような点が不満ですか?
A、他人に対して不満を持ってもしかたがない。そのことで、自分が不利益を被らないのならよい。不満は自分に対して持つように。
Q、読書の秋ですが、先生が読んでおもしろかった本は何ですか?
A、「読書の秋ですが」という導入部はなかなか笑えます。面白い本は、人に教えないことにしています。人からすすめられるだけで、面白さの何割かが失われるから。
Q、若いときにしておけばよかったなぁということがあったら教えてください。
A、そういうことはない。今でもたいていできるからです。若くないとできないことって、何かありますか?
Q、好きな作家はいますか?今までに建物を設計して作ったことはありますか?
A、いる。ある。
Q、初恋の思い出を聞かせてください。
A、嫌です。

*人生相談?
Q、私は野球部に入っていますが、年中忙しくて大変です。正直言えば、バイトもしたいですし、どうしたらうまく両立していけるでしょうか?今はなんとかなってますが、これから自信がありません。
A、何の両立?クラブと学問?両立させる必要なんてありますか?どちらが大事か、というだけの問題では?いつだって、一番大事だと思ったことをしていれば後悔しないと思う。人間なんですから考えて下さい。
Q、新しい考えを思いつくにはどうしたらいいですか?
A、真剣になってひたすら考えること。必ず何か思いつくでしょう。思いつかないのは、考えてないから。これは、どうやったら50m先へ行けますか?という質問と同じです。
Q、僕のある友人が最近繰り返しの毎日に気づき、そんな生活に不安と不満を持ち始め、自分の存在価値と目標を見失いがちなのですが、先生はその友人を知らないので無茶な質問なのはわかりますが、どうすれば良いと思いますか?また、何か良い気分転換はありませんか?先生もそんな時期がありましたか?こういうことを聞くのは馬鹿馬鹿しいですか?
A、後ろから答えましょう。馬鹿馬鹿しくはない。誰にもそういう経験はあると思う。森の経験則では、次のことが言えます。「何かに悩んでいる人は、解決策を知らないのではなく、最良の解決策を面倒でしたくないだけだ」。その友人には、まず、自分の部屋を片づけることをすすめましょう。

 あー、こんなふうに少し引用したくらいではなかなか雰囲気が伝わらないですね。

 あと
*建築に関する質問
*大学についての質問
*科学一般についての質問
 などなど、ひとつの章につき100以上(トータル1000くらい??)のQ&Aがこの本には収められています。

 学生からのバラエティに富んだ質問に森先生はいかに解答しているか?ぜひ本屋さんで立ち読みしてそのおもしろさにふれてみてください。

 「学生からの質問への答え方指南」もありますので、もしもこのブログを読んでいる人でそういう悩みを持っている人はそちらを参照してください。

 実はこの作品の二作目も発売されていて、一作目が学生からの質問であったのに対して、二作目はネットで募集したいろんな人たちからの質問に森先生が応えています。
『臨機応答・変問自在、2』集英社新書、2002年 こちらもおもしろいです。

 他にも、以前このブログでも紹介した、あのツチヤ教授とのトークセッション『人間は考えるFになる』が講談社文庫から出ています。こちらもなかなかおもしろいです。

 メディア・ファクトリーから出ている『モリログ・アカデミィ』シリーズのほうがとっつきやすい人もいるかもしれません。森先生のブログが本になったもので、たしかもう5冊目くらいまで出ているかな・・。

 そして、人生に悩んでいる人は『的を射る言葉』PHP研究所、を読んで、元気をもらうといいと思います。(あ、この本は決して森先生が読者にやさしい言葉を投げかけているという本ではありません、読んで自分で考えてください)

 

 

 

 

 

『だまされ上手が生き残る』(2011.12.1 tanakomo

 

人はなぜだまされてしまうのだろうか?
壁のシミが幽霊に見えたり、記憶が歪められたり、根も葉もない噂話を信じてしまったりするのはなぜか?
また、感情的になったら損だとわかっているのに怒ってしまったり、将来予測されている危機を過小評価してしまったりという心の動きはどこからくるのだろう?
詳しくは本の紹介を見てほしいのですが、この本は、そういった人間の心の動きを「進化心理学」という観点から分析しています。心は「だまされる」ように進化したのではないだろうか、一見「おろかな」行動のほうが実は賢い選択ではないかという観点から人間の心の動きを解明しようとしているのです。
「進化心理学」というのは、1990年代から注目され始め、心の動きが形成された経緯を生物進化論にもとづいて考える、人間が自然環境や社会集団の中で円滑に生き抜いていくための機能として、長い生物進化の歴史を通して心が培われてきた、そんなふうに考える学問分野です。
「進化心理学」は、生存競争の歴史上、人間が環境へこのように適応してきたのでこのような特性がある、と考えていきます。
生物としての人類は、人類がまだ人類として存在せず霊長類として進化していた時代が非常に長く、また人類として独自の変化をとげたのは約300万年前から1万年前くらいですから、この頃までに、すでに心の機能が形成されたと見るべきだと考えます。つまり文明が発達した1万年前から現在は、生物進化の歴史からするとごくわずかな時間であり、生物学上の機能は進化したわけではない。この時期の環境の激変には、以前から持っているモジュール(部品)をさまざまに組み合わせて対応しているのではないかと考えているわけです。
つまり現代の私たちの心の動きは、過去の狩猟採集時代の生活に合わせてチューニングされている元々の機能を考えることで多少なりとも分析可能なのではないかというわけです。
なかなかおもしろく読めました。
これとあわせて、講談社ブルーバックスから出ている『人はなぜだまされるのか』もどうぞ。

 

 

 

 

『この国の問題点』(2011.9.29 tanakomo

 

今日の中日スポーツのねじめさんのコラムに、以前ねじめさんが「落合監督のことが好きだ」と言うと、報道関係者から「それは少数派ですね」って言われて違和感を感じた、といった内容のことが書いてありました。マスコミは、落合監督のせいでファン離れが起こったという形にしたいようですが、インターネットその他でさまざまな意見を見る限り、落合監督が好きでドラゴンズファンになったなど、落合監督を支持する声は多いです。(きらいな人もいるけどそれはどんな監督でもあることだと思う)

違う話題から入ってしまいましたが、この本を推薦する理由のひとつとして、日本のジャーナリズムについて多くを知ることが大切だということがあります。
現在の日本のマスコミは自分たちに都合のいいことしか書きません。ぜひ、特に若い人にこの本を読んでほしいものです。今回の震災における東電発表と、70年前日本を破滅に導いた「大本営発表」がまったく同じだということから目をそらすべきではないと思います。
もちろん、ジャーナリズム以外の話題もたくさん書いてあります。日本という国のこと、それを取り巻く現状などがわかりやすく書かれています。
そして上杉さんの文章はとても読みやすいです。ぜひご一読を。

プロ野球の話でもうひとつ。今、阪神の真弓監督はファンから罵倒され、辞めてほしいと連呼されてますが、それで阪神ファンが特に減っているわけじゃないと思うのです。監督の好き嫌いとチームの観客動員数がほんとうにリンクしているのか(真弓監督はきらいでも甲子園は満員)疑問です。
まあ落合監督を悪者にしておけばマスコミは楽ですからね。
この上杉さんの本を読みながら落合監督辞任のことをずっと考えてました。