ビジネス(がらみの)小説

『インドクリスタル』(2015.1.28 tanakomo)


力作です!おもしろかった!

国際ビジネスに携わっているひと、これから携わるかもしれないと思っているひと、将来国際的なNPOなどで働きたいと考えているひと、もしくはインドに興味があるひと、インドその他古い歴史を持つ国々(中東地域など)と現在ビジネスをしているひと、する予定のあるひと(すいません長くて)、そんな方々に必読の書として薦めます!!

日経ビジネスや週刊文春などのオジサン系メディアで絶賛されている書籍で、けっこう熱の入った書評に惹かれて買ったのですが、これがかなりいいんです。

巻末の謝辞にもありますが、足かけ5年にも及ぶ取材(もちろん現地取材も含め)でお世話になった方々のリスト(団体名)、そして参考文献を見ると、決してこの本が荒唐無稽なフィクションではなく、また著者が頭の中だけで作り上げたストーリーではないことがわかります。

でもそれはそれでシリアスなんですけどね。
ここに書かれていることがホントにインドで現在進行中なのだとしたら、平和ボケし、過去の伝統を何の考えもなしに捨て去ろうとしている日本人にとってはかなり衝撃的なことが書かれています。

物語は、世界各地で水晶の原石を探して仕入れている精密機器メーカーの購買担当者が主人公で、そこに不思議な少女がからんできて、さまざまなキャラクターがそれぞれ存在感を放ち、実にリアルに書き込まれたインドの実情と雰囲気が背景となって進んでいきます。

国際ビジネスはもちろんのこと、インドの政治経済、差別の実情、少数民族とはどんな存在なのか、女性の地位向上・貧困撲滅に関わる世界のNGO・NPOの取り組み、また暗躍するテロ組織などの現状に関してとても勉強になります。

ストーリーもなかなか手が込んでいて、伏線も張られ、ミステリの要素もあります。

オジサン系メディアの書評では、不思議系少女ロサに言及しているものが多いですが(彼女の登場シーンは少ないものの、彼女の動き、象徴的なシーンを軸に物語は進みます)、フナツはインドの現状に翻弄されまくる(精神的にも物理的にも右往左往する)主人公の藤岡に感情移入しました。

フナツも30代の頃は貿易会社の代表として、そしてバイヤーとして、世界各地(あ〜、ちょっと盛り過ぎですね、先進国が多かったからこの本の主人公ほど苦労は全然していない)を飛び回り、それなりに苦労したことがあったので、「うん、うん、そうだよね〜」とか「オレだったらそこでビジネスあきらめて逃げるな」なんて思いながら読んでいました。

あらすじやエピソードを書くのは控えておきます、ふふふ。

ぜひ手にとって読んでみてください。
数日間、インドという国、日本人とはまったく違うインドに住む人々(いろんな人がいる)の中に入り込み(頭の中だけね)、異文化理解とは、国際ビジネスとは、先進国の何かしら組織が発展途上国にどの程度関与できるのか、などを考えていただけるといいです。

内容は濃いし、ハードな描写だし、絶えず頭の中に不協和音が鳴り響いているような感じですが、読み物としてはとてもおもしろいです。

日本は平和です。それをしみじみ感じます。

だから日本が幸せでインドが不幸せ、なんてことを言ってるわけではありません。

何が幸せかはひとそれぞれ本人が決めることであり、この本の中で何度も描かれている、無知な先進国の人間の「上から目線」で人の幸不幸を判断することの愚かしさを知ってほしいと思います。

自分の置かれている状況からしか他人を推し量ることができなくて、目の前の人がどんな事情があってどんな気持ちで行動しているかを想像することすらできない(いや、想像しようともしていない)愚かで傲慢な先進国の人々(私たちのことです)のことがよくわかります。

たった1900円でこんなに勉強できて何日も楽しめるって・・、本という媒体はやっぱりすごいです。




『マネーロンダリング』(2015.1.20 tanakomo)


橘玲さんのデビュー作ですね(幻冬社です)。

 

デビュー作でここまで書けるなんてすごいです。

 

最初は、いわゆる経済小説のような書き出し(香港にある銀行に日本人が預金口座を作り資金を避難させるやり方の解説)から入り、途中からはだんだん上質のミステリのような展開になってきます。

 

主人公を訪ねてきた美しい女性。そしてその女性とともに、怪しげな投資案件で集められた50億円が消えた、お定まりのヤクザがからんできて、主人公がそれに巻き込まれる。

 

橘さんは、縦横無尽に金融・経済・税制その他もろもろの知識を使い、物語に厚みを加えていきます。

 

どうやって脱税するか、どうやって日本国内の資金を海外へと逃すか、そして題名にもなっている、ヤバいお金をどうやって洗浄(マネーロンダリング)するか、のテクニックがこれでもかと書かれていてとても興味深いです。

 

そして、どんでん返しにつぐどんでん返し。

上質のミステリの真骨頂ですね。

 

ミステリが好きな人ならわかると思うんですが、左手指が感じるページの厚みで、もう終わるのかまだまだ続くのかがわかりますよね。

 

物語はもう終わったかなぁって感じなのにまだページ数が残っているので、これはまだ何かあるって感じでもうずっと最後まで気が抜けないのです。

 

で、また最後に「加速度を増して展開するストーリーもさることながら、物語の柱として描かれているオフショアを利用した不正スキームが、専門知識に基づく極めてリアルなものであり」と解説を書いているのが、元大阪国税局総務課長だったりするのです。

 

この解説を頼んだのは見城さん(幻冬社の社長で有名編集長でもある)かなぁ。これもまた憎い演出です。

 

フナツも何年か前まで国際税務調査のための国税局の研修で講師を務め、国際ビジネスの裏側をよく話しましたが、橘さんはスケールが違います。圧倒されました。

 

いろいろ専門用語も出てきますが、さきほども書いたようにミステリとしても十分楽しめます。

ミステリを楽しんで国際金融や税制に詳しくなれる一石二鳥の小説です。 


  

『KATANAプロジェクト』(2014.5.20 tanakomo)

 

文庫が出ました!!

フナツが持っているのは、2010年6月初版の単行本ですが、今年3月に文庫として出ました。

『龍の契り』で香港返還をめぐるイギリスと中国の死闘を描き、『鷲の驕り』では、先端技術の特許をめぐる各国の攻防を、そして『GMO』で遺伝子組み換え食物を『エル・ドラド』では「アグリビジネス」を、かと思えば『最勝王』で空海を、『海国記』では平清盛を、と(他にもたくさんあるんですが・・)、さまざまなトピック(それも興味深い)を取り上げて小説としてエンターテインメント性を持たせて作品を出し続ける服部さん。

すごいです。誰にでもお勧めというわけじゃないですが、小説としてもおもしろいし、当該分野でとりあえず知識を仕入れとかなきゃいけない人っていう人にはうってつけです。

この作品も、アメリカ正規軍が手を出せないダーティな仕事をする戦争請負会社や、アメリカの銃規制問題、さらには武器とはどうあるべきかという倫理問題や報道番組を作るジャーナリストの裏側などを描いてくれて、いろいろてんこ盛りでとてもおもしろいです。

単行本で500ページを超えるちょっと分厚い本ですが、飽きずに読めます。文庫本も厚い・・・。

そして本の題名がどんなふうに内容にからんでくるか、これも楽しめる部分です。

 

 

 

 

『ハゲタカ 2』(2013.4.20 tanakomo

 

前作を上回る昂奮です!!

上巻ではあの「カネボウ」の破綻及び再生を。そして下巻ではたぶん富士通?(NECかも・・)、をめぐるM&Aの内幕が語られます。手に汗握る展開で上下巻とも一気に読めてしまいます。

今回も鷲津(主人公です)の戦略は冴え渡り、日本企業を狙う投資ファンドが暗躍し、整理回収機構に代表される、日本政府が後押しする企業再生のための受け皿との対立がヒートアップしています。

そしてそれと同じくらい日本という国の企業風土の特殊性が浮き彫りになっています。

企業の新陳代謝がスムースにいかないところ、企業の経営トップの戦略の無さ(これはもうしょうがない部分もあります、決してトップが優秀じゃないわけじゃないんです、自分を引き上げてくれた前任者のやったことをなかなか否定できない、自分が恩を受けた人が推し進めた事業をばっさり切り捨てることができない、または失敗しないことだけが出世の切り札である、などなど)、そして義理人情・しがらみ・見栄・大局観を持てない企業運営、数え上げればきりがないですが、企業におけるそういうものをじっくりと考えさせられます。

また、日本政府と一般私企業(大企業や銀行)の癒着ぶり、という言い方が不穏当なら、護送船団方式の悪弊、私企業の経営に政府がくちばしを挟むという、資本主義って一体日本ではどう解釈されているの?日本ってホントは社会主義国家じゃないの?といった状況。

そして、(これはある程度は事実に基づいたフィクションだと思いますが、でもほんとうかもと思わせるような)リアルで恐ろしい国際謀略の数々。

改めて、小説という形式で日本経済の現代史のある側面と、企業の盛衰を、楽しみながらきちんと復習させていただきました。真山さんありがとうございます。

もちろんこれは小説でありフィクションです。事実ではありません。でも、小説だからこそリアルに描き出せるものもあるとフナツは思います。

真実なんて結局部外者には永遠にわからない、というシニカルな考えを否定しないのなら、小説でも十分OKということになりますよね。

実はあのときこんなことがあったのかー、あの事件の裏には、あの吸収合併の裏には、こんなことがあったんだなー、という読み方もできます。

ビジネスパースンなら読んでみて損はないと思います。

 

 

 

 

『ハゲタカ』(2013.4.8 tanakomo

 

バブルがはじけて、たくさんの日本企業が経営不振に陥っていた頃(あのときは銀行も証券会社もつぶれましたよね・・)、「ハゲタカファンド」と呼ばれた外資系の会社が活躍しましたね。

つぶれそうな会社を債券債務ごと安く買い取り、優良な部分だけ切り離して再生させたり、日本企業では到底無理なリストラをして黒字にさせたり、ビルや工場(ウワモノ)を取り壊して不動産だけを売り払ったり・・、そんなさまざまな手法で倒産寸前の会社を優良会社として蘇らせ、そして売り払い、巨額の利益を得る・・。

そんな手法が、あるときは罵られ、あるときは恐れられ、そして業界の内部では賞賛されていました。

それはそれは実に見事な(当事者でなければ)、そして残酷な企業再生の方法でした。

この小説はそんな、よく事情を知らない人には当時忌み嫌われていた外資系のファンドの社長を主人公(設定はアメリカ帰りの日本人)にして、当時の日本と日本企業の実情を描いたものです。

実におもしろい。
どちらかというとその「ハゲタカファンド」寄りの書き方ですが、そういった外資系のファンドがどのようなビジネスをするのかが克明に描かれています。

当時、ハゲタカファンドのことを悪者あつかいしていましたが、あの頃の日本企業のダメっぷりを知ると、ハゲタカファンドが買い取ってくれてよかったのかも・・、なんて思わせてくれます。

企業の新陳代謝は(資本主義においては)必要なんだなとも思いました。

加えて、フィクションと銘打っているものの、ほぼ実名がわかるような書き方をしてあるので、たとえば、現在アルファベットの銀行の一部になっている「三葉銀行」とか、栃木にあって地場産業を多く顧客にしていたにもかかわらずつぶれてしまった「足助銀行」などなど、いろいろなことが、わかる人にはわかるはずです。(ちなみにこのとき当時の学者大臣がやったことも書かれています、もし事実だとしたら許せない・・・)

バブル後の日本企業の実態を知るという意味でも、そして失われた20年を企業がどのように乗り越えてきたのかを知る手段のひとつとしても、読む価値があると思います。

えーと、映画とかTVドラマで観た人もいるかもしれませんが、原作とはかなり違うので、「映画(ドラマ)見たけどつまんなかった」なんて人もぜひもう一度トライしてみてください。

映画化、ドラマ化がいかに原作を歪めるか、もとい、脚色されるということもよくわかります。

読後、「うーん、日本企業って・・」と感慨を深める人もいるかもしれないし、「欧米流の資本主義ってこんなふうなのね・・」と知識を新たにする人もいるかもしれません。

上下巻ですが、けっこうスリリングな展開が多くて一気に読めます。

これからビジネスマンになる人にも、あの当時を知る人にも、きっと「ええ!こんなことがあったのか!」とびっくりすると思いますが、お勧めです。