宮部みゆき『おまえさん』上・下、講談社文庫、2011年
大人気“ぼんくら”シリーズの第三弾です。
「ぼんくら」「日暮らし」ときて、この「おまえさん」。
どれも面白いんですが、この「おまえさん」でまた宮部さんが円熟の境地に達した感があります。登場人物の心の内面を、心憎い描写で浮き彫りにしていく手法がほんとすごいなと思います。
お馴染み、ぼんくら同心の井筒平四郎、その甥っ子弓之助、おでこの三ちゃんが活躍します。
もちろん、おとく屋さんのお徳や、岡っ引きの政五郎さんも健在です(政五郎さん、渋いっす)。
これからレギュラーになっていきそうなキャラクターも少しずつ増えてます。楽しみです。
江戸の街の風物、そして犯罪が徐々に解き明かされていくミステリー、それらが含まれている、いわゆる「人情もの」ですね。
ちょっと長いですが、ずっと楽しめると思えば長編の方がいいですよね。
宮部ワールド(時代物の)へようこそ、って感じです。
そして、このカバー装画、村上豊さんの絵が個人的に好きです。

宮部みゆき『孤宿の人』上・下、新潮文庫、2009年
讃岐国「丸海藩」に次々と降りかかる災難や凶事。捨て子同然に置き去りにされた九歳の「ほう」をめぐる事件の数々。なんて、本の内容の紹介ですけど、
ちょっとこれまでの宮部さんの時代物とは雰囲気が違います。
武士の体面、幕府の罪人を預かる重圧(粗相があってもいけないし、かといってお客さんではなく・・)、そんな小さな藩の幕府に対する遠慮、などなど、いい感じで書けてます。
武士って堅苦しいですよね。ホント見栄と体面ででき上がってます。
武士の家に生まれて幸せだったのかな〜、って(武士の研究を続けているフナツとしては)思います。藩(組織)の存続のために個人が抹殺される、現代の日本にも通じるところがあります。派閥争いとかね。
そういうところに、素朴でひたすら生きることに一生懸命な九歳の女の子「ほう」と、これもまた純粋な、十七歳の女の子「宇佐」が絡んで、物語は進んでいきます。
上巻で淡々と進んでいた物語が、下巻で一気に波瀾万丈になるところも面白いです。
実は、上巻と下巻を別のところで買ったものですから(古本をAmazonで)、上巻を読んでしまってから、下巻が配達されるのが待ち遠しかったです。
もうこれから別々に買うのをやめようと固く決意しました。
そんな感じでとても待ち遠しかったものですから、下巻は一気読み。もったいないから読むのをここでやめよう、明日にとっておこう、もう本を閉じるんだ、ともう一人の自分が叫んでましたが、結局最後まで手放せませんでした。ほんとにね〜、コスパ悪いですよね。もっとじっくり楽しまないと。おかげで仕事に手がつかなかったし・・。
ははは、そんなことはいいんです。
ただ、宮部さん描く架空の藩、もう場所と名前で「丸亀藩」をモチーフに、ってわかるんですが、すこ〜し設定に無理があったかなとも思います。でも、ネタバレになるといけないのであまり書けませんが、加賀様がなかなか味のある人物ですごく良かったです。気難しい人物を、天真爛漫な主人公が徐々に人間らしくしていくってのは「少女パレアナ」に通じるな〜って思いました。宮部さん、絶対「少女パレアナ」読んでると思うし。
「ほう」は天真爛漫ってほどじゃないんですが、ひたむきさや、まったく計算高くない、打算のない人って、思わずこちらも本音で接してしまいますよね。そういうところを描くのが宮部さん、ほんとに凄い。
そして、最後の最後、「ほう」の名前のところで泣けました。(これはぜひ読んでからのお楽しみで)